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東京高等裁判所 平成10年(ラ)2583号 決定

抗告人

株式会社鉄商

上記代表者清算人

若本恭二

上記代理人弁護士

河鰭誠貴

野中智子

村田晃一

三村祐一

相手方

住金物産株式会社

上記代表者代表取締役

幸田明治

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一  抗告の趣旨及び理由

抗告人は、「原決定をそれぞれ取り消し、本件債権差押命令及び転付命令の申立てをいずれも却下する。」旨の裁判を求め、その理由として、別紙「抗告理由書」記載のとおり主張した。

第二  当裁判所の判断

1  本件債権差押及び転付命令は、債権者を相手方、債務者を抗告人、第三債務者をA及びBとして、別紙差押債権目録記載の債権について発付されたが、抗告人は、本件差押命令には差押債権の特定がなく、また、本件転付命令の対照となった債権は券面額を有していないと主張するので、以下において検討する。

2  本件差押命令の差押債権の特定性

(1)  一件記録によれば、本件差押命令の第三債務者Aに対する差押債権は、①損害賠償請求権及び②受取物等(金銭)返還請求権であり、両者は請求権競合の関係に立つこと、その金額は一億〇五三六万五三八四円であることが明示されており、また、第三債務者Bに対する差押債権は、③損害賠償請求権であってその金額は一億〇五三六万五三八四円を限度とすることが明示されている。したがって、第三債務者ごとの差押債権が特定されていないということはできない。

(2)  ところで、記録によれば、本件差押債権については、抗告人が第三債務者両名を被告としてそれぞれその支払請求訴訟を提起したこと、第一審判決は、第三債務者Aに対する②の受取物等(金銭)返還請求権は一億〇五三六万五三八四円の限度で、第三債務者両名に対する①及び③の損害賠償請求権は一億〇四八三万四六二二円の限度で、それぞれ認容したこと、及びこれについて第三債務者両名が控訴していることがうかがえる。

そこで、本件差押命令の三個の差押債権の関係についてみると、①の第三債務者Aに対する損害賠償請求権と③の第三債務者Bに対する損害賠償請求権は、第三債務者両名の共同不法行為に基づく損害賠償請求権であるところ、民法七一九条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって、連帯債務ではないが、各債務者に対する債権は客観的に単一の目的を有し、一人の債務者に対する債権が満足を受けたときは、他の債務者に対する債権もその目的を達して消滅するという関係にある。また、第三債務者Aに対する①の損害賠償請求権と②の受取物等(金銭)返還請求権とはいわゆる請求権競合の関係にあり、その間に同一性はないが、一方の債権が満足されるときにはその金額と同一の範囲で他方の債権は請求できないという関係にある。そうすると、上記三個の債権は、結局、そのいずれかの債権が満足を受けた時には、その限度で他の二個の債権も満足を受けたこととなるという関係にある。

したがって、本件差押債権は、上記三個の債権それぞれについて差押債権目録記載の一億〇五三六万五三八四円の限度で差し押さえるものとして、差押債権の特定がされているというべきである。

3  本件転付命令における券面額

本件差押債権は、抗告人主張のとおりなお争訟中のものであるが、既にその基礎となる事実が発生し、しかも前記のように第一審が言い渡されている以上、その判決が未だ確定していなくても、その額は客観的には一応定まっている(ただ、第三債務者がその存否、数額を争っているから、当該訴訟事件の判決の確定等によって、その存否、数額が確認されるまでは、これを確知することが困難であるというにすぎない。ちなみに、第一審判決に対する上訴審において本件差押債権の存在が否定されるかその額が減ぜられたときは、その限度において本件転付命令の効力が生じなかったこととなる。最高裁昭和四〇年三月一九日判決、民集一九巻二号四七三頁参照。)というべきである。そして、本件転付命令は、その債権の額を一億〇五三六万五三八四円を限度として発せられたのであるから、民事執行法一五九条一項にいう「券面額」を有するというを妨げない(最高裁昭和三七年三月三〇日判決、裁判集民事五九号七五五頁参照)。

4  その他本件記録を精査しても、原命令を取り消すべき事由を見出すことはできない。

よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官増井和男 裁判官岩井俊 裁判官小圷眞史)

別紙差押債権目録

金一億〇、五三六万五、三八四円

債務者が第三債務者両名に対して有する東京地方裁判所平成七年(ワ)第一六九六二号損害賠償請求事件の訴訟物たる共同不法行為に基づく損害賠償請求権および債務者が第三債務者Aに対して有する東京地方裁判所平成七年(ワ)第五四二〇号預託金返還請求事件の訴訟物たる委任契約に基づく受取物等(金銭)返還請求権(両事件の訴訟物は、請求権競合の関係に立つ)

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